
101st restart/インラインの正しい解釈
TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )
「2000年といえばFoot Locker Japanが日本から撤退し、入れ替わる様にatmosが登場した年。その20年後に両者がひとつになりFoot Locker atmos Japanが誕生するなど20数年前に誰が予見したであろう」
◼101st restart 2000:2023
前回でコラム連載100回を迎え、今回からまた新たな気持ちで臨みたいと思います。
以前のコラムにも書きましたが、90年代末に当時のFoot Locker Japanさんからセールに伴うポップアップストアを実施出来る良い場所がないかとのご相談をいただき、仕事関係でお付き合いのあった海遊館(大阪)などの施設を運営する近鉄のグループ会社との橋渡しをしたり、店頭ではなく正式な手続きを経てオフィシャルでスニーカー等の撮影許可をいただいていたり…。


それが、20年以上の後に…テクストトレーディングカンパニーさん時代からの継続という形ではあるものの…こうやってFoot Locker atmos Japanさんのサイト内でコラムを書かせていただいているという状況に…とても不思議なご縁を感じています。
日本は島国。どれだけグローバルの時代になろうとも海外で通用する手法が日本特有の文化の中では全く通じない事は歴史が物語っています。
ですが、アメリカのFoot Lockerと日本のスニーカー市場を牽引し日本のスニーカー文化を知り尽くしたatmosの力が融合する事で、これまでにない新たな化学反応が起こる事に期待感を膨らませています。
◼インラインの正しい解釈
さて、がらりと話題を変えます。
以下はInstagramにポストしたものに若干のリライトを加えたものです。
パーフェクトな説明にはなっていませんが、インラインという言葉を不人気モデルの代名詞の様に認識されてしまっているのが残念で、敢えてインライとは?という事に触れました。
抽選対象になる人気モデルも、そうでないプロダクトも…取り扱う店舗が区分けされているだけで同じインラインモデルである事が殆どです。そう正しく把握する事で、これまで見落としていたモデルの中から自分に似合うスニーカーを見つけるきっかけになれば、これ以上嬉しい事はありません。

分かりやすい所で説明すると…例えばナイキの場合、年4回…3月、6月、9月、12月(アカウントランクによって多少前後する。アメリカはもう少し早い時期)にそれぞれ約8ヶ月ほど先から市場に投入し始める予定の商品群をリテーラーに案内(提案)し受注を行います。よく耳する展示会(※1)とはメーカーがリテーラーにこんな商品を用意しているので、その実物のサンプルを直に見て発注してくださいというものです。AIR JORDAN 1 RETRO HIGH OGも展示会開催時にラインナップされているひとつであり、展示会にラインナップされている商品の総称を「インライン」といいます。
そしてインラインは取引先であるリテーラーの特性や客層(※2)によってアソートメントが分けられています。
言い換えると、例えば郊外のABC等で展開する商品、SUPER SPORTS XEBIOの様なスポーツ用品の総合ショップで展開する商品、atmosやUNDEFEATED等で展開する商品といった具合にブロック分け(※3)されています。
従って、多くの方がインラインモデルではないと思っているAIR JORDAN 1 RETRO HIGH OGは、取り扱えるお店が限定されているインラインモデルというのが正確な解釈となります。
故に発売前から話題となり、抽選販売され即完するモデルはインラインではないという解釈はは大きく間違っているのです。
では、何がインラインではないのか?というと…年4回の展示会の際にラインナップされていないプロダクト、例えばモデル名にQS(※4)が付けられているものが挙げられます。
これは、発売時期が予め取扱い店に提示されているインラインとは異なり、発売の前月もしくは前々月に取扱い店に通知され、足数は一定数をメーカーが自らの在庫リスクで生産し、販売したい先に振り分けし、配分されるものになります。
尚、別注やコラボレーションは同じ呼び名の別注やコラボレーションが使われていても…それぞれ属性が異なる場合があって、インライン展開されるものもあれば、そうでないものも存在します。この辺りはまた別の話になるので、ここでは割愛いたします。
因みにインラインモデルは、その受注数によって生産されますが、様々な理由で無限に発注出来る訳ではありません。工場のスケジュールや材料の調達の他、ブランディングというメーカーサイドの意向で上限が定められていたりします。その例として、AIR JORDAN RETRO HIGH OGや AIR JORDAN 1 85があると思って、まず間違いないでしょう。
纏めると、インラインとは展示会でラインナップされている商品群の総称の事。そこにはいくつかの階層が設定されている。多くの方がインラインではないと思っているプロダクトも実はインラインのひとつで、取扱いが出来るお店が限定されているだけ。という事になります。
なので、限定という言葉を強いて使いたいのなら「インラインの中の限定」とでも表現するのがいいと。
そもそもインラインってスニーカーの業界用語なので…ユーザーが使うのはちょっと違うのかな?という感じがしないでもありません。
ただ、認識の間違いからインラインを不人気モデルの代名詞の様な表現に使われたくないなぁとは思います。
それに、昔と違って各シーズンのカタログが印刷物からデジタルリストになり、ユーザーの目に触れる事が皆無になった現在…何がインラインでどれがそうでないのか?は外からは限りなく見えなくなっているというのが現実です。
以上、長きに渡りスニーカー業界関係者の方々との接点から得た拙いながらも得たインラインとは何か?でした。
些細な事ではありますが、起点を正しくしておかないと…どんどん解釈のズレが広がり、辻褄が合わなくり訳がわからなくなってしまいますから。
年商2,500億円に及ぶ靴小売業大手の企業である株式会社エービーシー・マート。2枚目の画像はその郊外店舗のフェイスです。
ここに並ぶスニーカーは、多くの方が認識している通りインラインです。そして、合皮やコットンテキスタイルを使用した本体価格が10,000円以下のものが大半です。その為、atmosやUNDEFEATED等でスニーカーを目にする人にはチープで見劣りして映るのだと思います。

しかし、これらのスニーカーはナイキが製造する歴とした正規品であり、シューズとして必要な履き心地を備えた良い商品ばかりです。それに製造クオリティが意外な事?^^;にも安定してたりするんです。
何より、その売上高はハイプといわれるスニーカーを凌ぎます。
これらのスニーカーは生活必需品として消費され、シューズとしての役割を全うします。一部の例外を除けばコレクションとして保管される事も転売される事も殆どないであろうスニーカー達です。

挙って量販店のスニーカーを買いましょうとは言いません。ただ、休日に出かけた際…もし行き先の近くに同様の量販店があったなら、そこに置かれているスニーカーを…これまでとは少しでいいですから違った見方をしてもらえると嬉しいです。
郊外の量販店に置かれているスニーカーの存在が、そしてそのスニーカー達が売れていなければ、日本にAIR JORDAN 1 85やTravisコラボ等が入って来なくなる可能性だって考えられなくはないのですから。
スニーカーヘッズを公言するならば、この事を頭の片隅にでも留め置いていて欲しいと思います。
※1:コロナ禍によって実物を並べる展示会に代わりオンラインでの提案スタイルになりましたが、1年ほど前から東京のみで再開されていると聞いています。
※2:特性や客層の他に立地条件や佇まい等もアソートメント分けを左右する場合があるみたいです。
※3:ブロック(アカウントランク)分けをしないと、何処も同じ商品を並べる事になり…その結果、価格競争に陥りブランディングに影響を及ぼし兼ねないという理由があります。
※4:現在はQSがよく使われていますが、インラインではないカテゴリーの事をNON-FUTUREだとかSPOTと呼ぶ事がありましたが、これについて深掘りすると怒られそうなのでやめておきます(苦笑)。
