過大評価も過小評価もなく…

TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )

2月はadidasやCONVERSE、new balance等で注目度の高いモデルが「これでもか!」という勢いで登場しましたが…やはりその中でも中心的な存在だったのはNIKEであり…AIR JORDAN 1 85 BRED(Reverse Engineering Version 以下略 ※1)やAIR JORDAN 1 RETRO HIGH OG Black Toeの発売日は2年前までのブーム時を想起させたのではないでしょうか。

東京では両モデルの発売にフックしたイベントや屋外広告等のプロモーションが繰り広げられた様ですが…かつての仕事柄、ついつい出稿料や素材の製作費にいくらくらいかかっているのか?と計算してしまい…それに見合った効果は得られたのだろうか?等と考えてしまいます。

他にも2月21日に発売されたAIR FOAMPOSITE ONE QS(FQ4303-400)”Galaxy”が話題になっていました。ところが…です。正直な事を言うとオリジナルとされるAIR FOAMPOSITE ONE QS(521286-800)が2012年に発売された際、大きなムーブメントになった記憶が私の中にはないんです。

当初、2012年2月18日に予定されていた発売日が1週間後の2月25日に延期になった事。NBA ALL STAR 2012を記念した…いわゆるカタログ掲載外のQuick Strikeモデルだった事。極めて限られた小売店での抽選販売だった事くらいしか思い浮かばないんです。
そもそも “Galaxy”などというサブネームがオフィシャルでアナウンスされていたのかさえ記憶にありません(私が知らないだけかも知れませんが)。

当時のAIR FOAMPOSITE ONE QS(521286-800)を特別なモデルなのかも?と多くのユーザーが捉える様になったのは、リセール店が高額な値を付けた後からという印象が強いのです。2012年前半の日本のスニーカーシーンって静かな凪状態の最中で、AIR FOAMPOSITE ONE QSが発売された後に存在を知った人も少なくありませんでしたから。

なので、今になって「名作」とか「伝説」という形容詞で紹介されても…え?そうだっけ?ときょとんとしたのは私だけではないはず。
今回のAIR FOAMPOSITE ONE QS “Galaxy”の発売日が平日だった事や、ドレスコード等の複合的な理由があったものの…店頭抽選に臨んだ人が東京2店舗で約100名余り、大阪1店舗で約30〜40名程度だった事を考えれば「伝説」や「名作」というわりには少なくないですか?
誤解しないでいただきたいのは、AIR FOAMPOSITE ONE QS “Galaxy”が良くないと言っているわけではありません。AIR FOAMPOSITE ONEやAIR FOAMPOSITE PROには熱烈な支持者がそれなりにいらっしゃいます。ですが、ファン層はそう厚くないというのが実態に近い解釈かなと思います。

スニーカーの歴史が長くなるに連れ、個々人の認識のズレも手伝って史実とは異なる事がSNSを通じて拡散され「伝説」や「名作」が簡単に量産される。何が本当の「伝説」で、どれが本物の「名作」なのか?訳がわからなくなっています。故に実態とかけ離れた過剰な表現は程々にしないと虚偽になり兼ねないので、私も含めて発信する際は注意を払わなければなりません。

前回も少し触れましたが…海外のネットに頻繁にポストされる「生産数世界〇〇PAIRS」というのも何処まで信じていいものか。情報の出処が定かでは無いですし、メーカーとしては生産量が公になると、いろんな面でリスクがあるはずなのでマーケティングとして利用する様な愚行をするとは考えにくいんです。
いずれにしても、起点となる共通の基準がない爆量とかハイストックという曖昧なものに一喜一憂したり右往左往すると疲れるだけなので「へぇ、そうなんだ」くらいに聞き流す程度で十分です。

余談をもうひとつ。

3月1日に発売されたNIKE DUNK HIGH RETRO SE(HF3143-700)の表示カラーがナイキアプリ上で「バーシティメイズ/ホワイト/サンデッドパープル/ミッドナイトネイビー」なっていますが、購入された方によると…ボックスラベルの表示には「サンデッドパープル」は入っていないそうです。
私はこの「サンデッドパープル」の表示があったので購入を躊躇しました。なので「サンデッドパープル」というカラーが使われている部分がないなら、のこ表記はない方がいいかなと思います。

ただ、ライニングがミッドナイトネイビー(紺色)ではなく、バーシティメイズ(黄色)なので…このNIKE DUNK HIGH RETRO SE(HF3143-700)をオリジナルカラーの代名詞にもなっているBE TRUE TO YOUR SCHOOLの紺黄(ミシガン)にカテゴライズするのは如何なものかと。
ミシガンというのはライニングも紺色の…あくまでBE TRUE TO YOUR SCHOOLに属する紺黄を指すもの。その辺りを曖昧にし、紺黄の総称の様に安易にミシガンと称する様になったリセールブーム以降の弊害のひとつなのでしょう。

こういう拘りがなくなり解釈にブレが生じると、それが小さな綻びとなり、NIKE DUNKが持つカルチャーの根幹を揺るがし…いずれスニーカーカルチャー全体をも崩壊させる事になり兼ねないのです。
何よりオフィシャルの説明文にBE TRUE TO YOUR SCHOOLに関わるワードが入っていないのは、そういう事なのかと。
時代の変化と共に変わるべきもの、変えていかなければならないものもあれば、変えてはいけいけないものもあるのです。

賢明なスニーカーヘッズの方々にお願いしたいのは…今後、後輩となるであろう未来のスニーカーヘッズ達の頭がお花畑にならない様に、スニーカーはリセール価格の上下だけではない事も併せて、過大評価も過小評価もせず、ありのままのスニーカーシーンを伝え残していってあげてください。でないとスニーカーはとても浅いカルチャーになってしまいます。

さて、戯言はこれくらいにして…3月も注目のUNION AIR JORDAN 1 RETRO HIGH OG SP(HV8563-600)のリリースが予定されていますし、AIR MAX DAYもあります。
そして、4月にはatmos CONが控えています。
同時に一部モデルの販路が少しず2018年頃以前に戻りつつあります。私はその理由やそれによってシーンがどう変化していくのか?という人とは違った面ばかりが気になります。

【付録】

※1
2月8日に発売されたAIR JORDAN 1 85 BREDは、既存の85シリーズとは明らかにシルエットが異なるので、便宜上Reverse Engineering Versionとしています。

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