
Now is normal time
4月中旬、ちょうどatmos conが開催される前日…全国に約870店舗のシューズ量販店を運営する上場企業の取締役だった方から昼食のお誘いをいただいたので、天王寺へ。住まいの立地から主要な繁華街に出向く場合、難波・心斎橋か大阪・梅田になることが多く、天王寺は数年ぶりでした。
天王寺で個人的に思い出されるのは…歌手、特に演歌歌手の方がキャンペーンで来阪すると必ず挨拶に訪れるというレコード店があった事です。小さな何の変哲もない店構えなのですが販売力があり、店主のキャラも含め親しまれた名店でしたが…随分前に後を継がれる方がおらず閉店になりました。
かつてはポップスに強い、洋楽に強い、クラシックやジャズに強い、演歌に強いというそれぞれ特色のある名物レコード(小売)店が全国各地にたくさんありました。
それが時代と共に、タワーレコードやHMVという大規模店の台頭や商品(楽曲)そのものの流通がパッケージから配信、ダウンロードへと変遷した事で閉店、廃業が相次ぎ、今や下町に店を構えるレコード店は絶滅危惧種の様な存在になっています。
現存する名店中の名店といえば東京・アメ横高架下の「リズム」さんが有名なので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
そういう世の流れは仕方のない事であり、否定するものではありません。ただ、そこに確実にあったひとつの文化(カルチャー)が失われた事は事実です。そしてそれはスニーカーにも共通するところがいくつかあります。


会食を済ませ天王寺をあとにした私は、その足で久しぶりに何軒かのスニーカーショップを覗いてみたのですが、そこで気になった事がふたつありました。
ひとつは体感的にではありますが店内に溢れる客層の8割が東南アジア系のインバウンドだという事。もうひとつは、どの小売店のフェイスも数年前に比べてナイキの占有率が低くなっている事でした。
これはナイキ一強の時代ではなくなった事のあらわれなのでしょう。
では、ナイキが全く売れなくなったのか?というとそうではありません。2018年前後から2022年にかけてのナイキの人気が異常だっただけです。
ピーク時と現在を比較して、ナイキはオワコンだと揶揄する人もいる様ですが…その方々にとってここ数年の限られたスニーカーシーンだけが全てで、そう感じてしまわれているのでしょうね。
ただ、スニーカーに限った事ではないですが、一面だけを見て「黒か白か」「0か100か」という様に決めつけるのは安易だなとは思います。


どのメーカーもこれまで幾度も浮き沈みを繰り返しながら今日があります。なのでナイキは必ずまた復活をします。その復活の仕方がどんな形になるのか?また、その時期はいつになるのか?その答えは現時点では分かりません。
かつてのナイキは、我々があっと驚く様なイノベーションによってムーブメントを巻き起こして来ました。願わくば我々の予想の斜め上を遥かに超える形での復活…ナイキがナイキであるが故の真骨頂を見せつけて欲しいと期待しています。
しかし、「新たなイノベーション」と言ってもそう易々と生み出されるものではなく、相応の時間を要します。
それまでの期間をナイキ自身も手をこまねいているわけではなく、ご承知の通り東京先行販売や地方を含む小売店での告知なしゲリラ販売、発売日を複数に分けたトリッキーな手法、直販アプリを使った新たな方式の限定販売など…手探り的に見えるものの、これまでとは違った試みが繰り広げられています。
その試みを一方では評価しつつも、個人的にはいわゆるサプライチェーンの後半部分がこの10数年で大きく変貌したせいで…かつて通用していた方法が通用しない、或いは期待するほどの成果が得られないのは分かっているはずなのに…変わり映えしない事しかしてないなぁとは思ってます(苦笑)。
もし、私が他のどの方とも違う部分があるとすれば…頻繁に店頭抽選が実施され、右から左にどんどん売れていた順風満帆な時だからこそ、もっと他にやるべき事、改善しておく事があるんじゃないか?と口煩く言い続けて来た事かと。
調子の良い時は担ぎ上げ、下火になるとこき下ろす様な器用さは私にはありません。故に例え嫌われ様とも、常に是々非々なのです。
値上げによる買い控え、アメリカのトランプ政権の関税政策など逆風が後を絶たず、この先の道は険しい。だからこそ、私に何か出来るわけではありませんが…ブーム時もそうでない時もナイキをはじめスニーカーを買い、履き続けて来たので、オワコンだ!等と過去の自分を否定する様な事は言いたくないと思っています。

アディダスには一定の安定感があり、onやアシックス、ニューバランスは好調で、プーマもコアなファン以外に女性からのニーズが高まりつつあると聞きます。
現在、東京や大阪の小売店の好調をを支えているのはインバウンドです。偉そうなことを言わせてもらうと、インバウンドが去った後の時代を見据えて、今から未来の新規ユーザー層をどう取り込んで行くか。即効性はなくても点と点とが線となり、やがてその幾つもの線が面になる様な形で、1からマーケットを創り直す覚悟が必要かと。
それが正解か不正解かは別にして、少なくとも効果を焦って小手先の施策を講じ、過去の功績や遺産をこれ以上廃れさせない様に…。
