NIKE 2025 Towards a new future

TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )

ご存知の方も多いと思いますが、日本時間9月20日の未明に「NIKE, Inc.の取締役会はエリオット・ヒル氏が2024年10月14日よりNIKE, Inc.の社長兼最高経営責任者になることを発表した」というニュースが世界中を駆け巡りました。

2024年Q3の決算後から囁かれていたCEO交代の噂が…6月の2024年Q4の決算報告をうけて株価が一気に約20ドル急落した事で現実味を帯び…パリオリンピックの後に何らかの動きがあると見られていたので…この時期の発表は決して突然というわけではありません。

ジョン・ドナホー氏に代わって、一旦は引退したエリオット・ヒル氏がナイキに復帰し社長兼最高経営責任者に就任する意義は大きい。

エリオット氏は30年以上に渡ってナイキで培ったグローバルな専門知識やリーダーシップ、更に業界とパートナーへの深い繋がりに加え、スポーツ、ブランド、製品、消費者、アスリート、従業員への理解が深い人物。 エリオット氏を直接知る方からは「彼はとても人望のあるリーダーです」「エリオットは物事が分かる人」という声を聞きました。 総じて、エリオット・ヒル氏はナイキの創業時から受け継がれた「企業文化」やナイキ本来の「ナイキの強み」とはどういうものなのかを熟知した現役及び元従業員からも慕われる人格者であるという事です。

さて、ここからはナイキCEO交代の話題から少し離れ…時を遡りたいと思います。

私がナイキに違和感を覚えはじめたのは2015年から2016年にかけての頃でした。しかし、その違和感の正体が何なのかは言葉には言い表しにくく朧げなものでした。

2016年と2017年のそれぞれ11月末にナイキジャパンだけで数100名ほどの方がレイオフによって去られています。
レイオフは以前にも何度かありましたが、ここまで大規模なものは私が知る限り初めての事でした。
しかも、退職を余儀なくされた多くは…ナイキがナイキたらしめる企業文化を継承した経験と知識を持つ財産ともいうべき存在の方々です。
当時、業績は決して悪くない状況下にあって何故レイオフを実施するのか?と疑問に思っていたところ「早期退職者に支払う資金が潤沢にあるから」というのが理由のひとつだと聞いて、私は「なんだそれ?」「若返りでも図っているのか?」と…。
会社をより良くしようと支えて来た貴重な才能を簡単に手放すのは勿体なく、得策とは思えませんでした。同時に残った従業員の方々はその状況を見て「明日は我が身」と感じ精励恪勤に職務に臨めるのだろうか?もし自分がその立場だったら心中穏やかではいられないだろうと…。

私がナイキさんに対して事ある度に疑問を呈し、毒を吐く様になったのはこの頃からです。

そしてそれが更に加速したのは2019年の後半からです。 2019年も後半に差し掛かった頃だったかと記憶していますが、卸先であるほぼ全小売店に「自社サイト以外でのオンライン通販はやめる様に」と通達があったと耳に入って来ました。理由は「ディスカウントによってブランドイメージが損なわれない為」と…(その理由は100歩譲って分からなくはない)。

同時期にD2C(Direct to Consumer)へのシフトを強化するニュースがありました。企業としては卸売より利益率の高いD2C(DTC)を行うのは合理化の一環としては理にかなっています。ですが、このタイミングで小売店が大手オンラインショッピングモール(例えば楽天やZOZO等)で通販を続けると…強化しようとしているD2Cの妨げになり兼ねないから禁止通達を行ったのではないか?という邪推が脳裏を過りました。 更にアカウントランクのセグメントを変更し、ヒート商品の卸し数を減らしたり、小売店によっては完全に扱えなくなった所も数多出て来ました。

この時、私はD2Cの強化と同時に何故卸売りを維持または更に強化しないのか?それが出来る力があるにも関わらず勿体ないとSNSやコラムでも頻繁に書く様になりました。 確かにデジタルに比べてフィジカルは非効率な部分があります。しかし、今よりも小売店と手を携えて市場を盛り上げ様としていた頃のナイキは、エンドユーザーと直截深い関わりをもつ小売店から、その地域毎の生のニーズを拾おうとしている様に見受けられました。それはオンライン上のアンケートや通販の売上げデータからは決して見えない範疇のマーケティングになっていたはずです。 そして、日本人的な考えかも知れませんがナイキが売れない厳しい時代を共に闘い支えた数々の小売店を理不尽なまでに冷遇する様子を見て…「ナイキはもはや小売店に対するリスペクトはないのか?」という思いが駆け巡り…「小売店を舐めるなよ」と暴言を吐く様な事もありました。 「真のSNKRSメンバー」や「平等」と実の伴わない耳障りの良いワードを並べた事に噛みついたのもこの頃の事です。

尚、私が知るレイオフは2020年と2024年にも実施され、ナイキジャパンだけでも100名近い方が退職されています。
その為、新規採用はあったものの…残された従業員は多忙を極めました。 ナイキクオリティが増えたとユーザーの多くが感じ始めたタイミングはこの頃のはずです。

従業員を大切にしない企業が顧客たる小売店を大事に出来るわけがない。D2Cとはその顧客が小売店から我々エンドユーザーにすり替わることを意味するのです。という事は…?と他人事ではないと訴えて来たつもりです。 ※何処まで伝わったかは甚だ疑問ですが(苦笑)。

ここまで読んで「あれ?」と思った方…いらっしゃいますよね! 今やスタンダード化してしまった直販オンライン上のディスカウントの嵐。アウトレットストアでは更に安く販売する様になり…ブランドイメージの崩壊を自ら招いてしまっています。 小売店からすると定価で販売しようと努めているのに、下手をすると下代(仕入れ値)より安くD2Cで売られたら目も当てられないのではないかと…。

D2Cによって売上げを大幅に増加させたという点では、ジョン・ドナホー氏の功績は大きい。ですが、効率や合理化に偏るばかりに優秀な人材や共に闘い支えてくれた小売店を蔑ろにしたツケは小さくなく、その結果が今回のCEO交代に繋がったのだと見ています。

余計な事は書くなとお叱りを受けそうですが…既に動画や限定公開のラジオ、Instagram等で言って来た事でもあるのでご容赦ください。 また、是々非々をモットーとする私の我儘なので、これを掲載するatmosさんとは無関係です(笑)。

それにこれらは過去の話です。これから変わって行くであろうナイキさんに私が今後物申す様な事はないと思います。多分ですが(苦笑)。

因みにジョン・ドナホー氏がナイキの取締役を務められる様になった年と私が違和感を感じ始めた時期がほぼ一致するという偶然。これはこれで面白いですよね。

誤解のない様に付け加えると、レイオフもD2Cも小売店のセグメントもグローバル(アメリカ本社)が決めた事。それに従わざるを得ず小売店やユーザーとの板挟みになった各担当者の立場を慮ると、苦慮されたのでは?と思うのです。

今回、敢えて過去を蒸し返す様な事を書いたのは…失われたナイキらしさを取り戻し、ナイキファンである事を誇りに思える次なるステージへ歴史を進めてくれるであろう新たに社長兼最高経営責任者に就任されるエリオット・ヒル氏への期待の表れとご理解いただけると幸いです。
表面的で雛形に沿った当たり障りのない祝辞でないところが、私っぽいかなと。

ここまでリセール市場に支配された状況とどう向き合い変えていくのか?それは容易な事ではありません。 失われた経験豊富な従業員が少なくなった今、社内組織をどの様に再編するのか?フランチャイズの立て直しをどう仕切るのか?セール三昧のD2Cをどうするのか?新しいイノベーションをどう生むのか?等、どれもが時間のかかるものであり、課題は山積みです。 2028年のロサンゼルスオリンピックまでの数年間で、どこまで変われるのかがひとつの節目となり…その時に真価が問われます。

以上、ジョン・ドナホー氏への労いと、エリオット・ヒル氏への祝意を込めて…。

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