行列のその先

TEXT by Yuki Koike(VINYL Inc.)

僕はこの4〜5年、アトモスの社長である本明さんの連載を担当している。昨年まで「WWDJAPAN」というメディアにいて、独立した。独立してからも本明さんの連載は続いているけど(もうすぐ100回!)、今は「VINYL(ヴァイナル)」という編集プロダクションをやっている。WWDはデジタルの利便性とプリントの大切さ、その両方を感じられるちょうど過渡期だった。その両方をものすごいスピード感でやり切るWWDは今考えてもすごいし、学びもたくさんあった。そんなことを考えながらつけた社名がVINYL。VINYLとはアナログレコードのこと。デジタル時代における実態を伴わない商品さえも「フィジカルと同じレベルで心に響かせたい」、そんな思いを込めた。

ファッション業界も今、「DX」や「VR」「NFT」などの話題で持ちきりだ。DXはデジタルトランスフォーメーション、VRは仮想空間、NFTは非代替性トークン。ざっくり言ってしまえば、どれもデジタルの話。UI/UXという言葉もあって、UIがサイトの使いやすさのことで、UXがユーザー体験を意味する。「SNKRS」にも限定オファーや、地域を限定した“SNKRS PASS”、コロナ禍以前はもっと行動を限定的に絞った“SNKRS STASH”なんてのもあった。買えて喜んだり買えなくて悔しがったり、そんな熱狂ぶりを見ていると、いずれも素晴らしいUI/UXだ。

思えばここ1〜2年はコロナもあって、なんでもECで買うようになってしまった。スニーカーはもちろん、仕事柄、本や雑誌をよく買うけど、それもほとんどアマゾン。そもそも都心に住んでいる僕ですら周りに本屋がない。とりあえずポチッとしてみるものの、積み上げたままの本や雑誌が山のようにある。スニーカーもそう。(僕の傾向だと)朝9時にSNKRSの抽選に参加して、たまたま買えたスニーカーほど、履かずに積んだままになっている。学生時代に行列に並んで手に入れた洋服やスニーカーは、いまだに処分できずに持っていて、今眺めてもなかなか愛情深いもんだ。パンケーキも並んで食べたから美味しく感じるのかもしれないし、ディズニーランドも(コロナで人数制限しているため)すぐにアトラクションに乗れてしまうとなんだか味気なく感じてしまう。その体験をデジタル上でも生み出そうという試みがUI/UXではあるんだけど、フィジカルに勝る体験はなかなか難しい。

そういえば、かなり前に本明さんが「To Go カウンター」なるものを店に設けたいという話をしていた。コロナ前の、まだ店に毎週末行列ができていた頃の話だ。ハイプなスニーカーの発売日になると整理券を配って、ショップの通常営業をクローズしなければならない。そうすると、せっかく海外や地方から来てくれたお客さんに申し訳ないし、他のスニーカーも売れないから機会損失になる。だから通常営業をしながら、限定商品だけ専用のカウンターで売れるようにしたい、と。ハイプなスニーカーは9割が試着されないからとも言っていたけど、ロケーションの問題とかコロナとかで実現には至っていない。

ところで、このコラム、実は2月には公開されているはずだった。結局、遅くなってしまって、僕のこのコラムに対するUXが最悪でごめんなさい。今後ともよろしくお願いします。

Related Article List