
フットロッカーのアトモス買収から1年
TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )
atmos universityで1年前に書いた「Memories of Foot Lockers Japan」とその後の「2022年に向けて思うこと・・・。」
今回はこの2つのコラムの続編です。
相談があるので心斎橋まで来れないか?という電話を本明さんから貰ったのが2020年3月下旬、新型コロナウィルスのニュースがテレビで頻繁に報じられ始めた頃のことです。
その相談とはatmosサイト内で記事(コラム)を書いてくれないかというものだったわけですが、用件が済んだ後の雑談の中で今でも記憶に残っているものがあります。
ひとつは新型コロナウィルスで実店舗の売上が半減しているが、相対してウェブ通販での売上げが好調で100%とまでは行かないまでも何とか補えている。
もうひとつはatmosの時価総額は概ねこれくらいで、近くFoot Lockerが日本に再進出するかも知れないという2つです。
この時は、店舗の維持費は固定で必要なわけで…30店以上を構える様になると損出も30倍。笑顔で話してはいても大変なんだろうなということと、量販店でいうとチヨダを抜きABCマートが君臨している日本に今更何故Foot Locker?くらいにしか私は思っていませんでした。
2021年8月2日「米フットロッカーがアトモスを約400億円で買収」と報じられ、日本のスニーカー業界に激震が走ります。
ですが私には驚きはそれほどありませんでした。というのもこの1年前の雑談と直ぐに繋がったからです。
「もしかすると、あの頃から既に話は進んでいたんだろうな」と。
同日、ネットニュースを見ましたという私からのLINEに対する本明さんの返信です。

この2行で本明さんが置かれている状況を察することは容易でした。
ちょうど【偏愛】ダンク展の最中ではありましたが、雑事を増やさない様にすることが唯一、自分に出来ることと考え暫く連絡するのは控えようと。
その日の内に「フットロッカーがアトモスを買収」というセンセーショナルなタイトルでテレビのニュースでも取り上げられ、ユーザー間でもSNS上で憶測が飛び交っていました。
報道から4日後、私がポストしたInstagramのストーリーズです。

本明さん自身から話してくれることには耳を傾けますが、私は興味本位で根掘り葉掘り立ち入ったことを聞く様なことはしません。それは、買収のことに限らずです。
なので買収に至るまでの内容は全く知りませんでしたが、紛いなりにもかつてのFoot Locker Japanとの関わりを持ち、Chapter以降のテクストトレーディングカンパニーを見て来た者として、何故このタイミングで本明さんがatmosを売ったのか?の予想はそう難しくはありませんでした。
この時はスーパーサイヤ人でしたが、今ならギア5(フィフス)に例えるかな(笑)。
2022年8月28日、atmos心斎橋店でRIZINファイターの皇治選手の来店イベントを開催するので大阪に行くとLINEを貰い30分ほどの短い時間でしたが半年以上ぶりにカフェで話すことが出来ました。

本明さんからの誘いに対して私が出向く理由はただひとつ。会話の中からコラムで書くテーマのヒントを掴むためです。
この日はナイキやこの先のスニーカー市場の動向についての話になりました。
そして他愛もない雑談の中で
「僕、(Foot Lockerの)言うことを聞かないからクビになるかも(笑)」と…。
私は心の中で「この人、また言ってるし(笑)、同じフレーズを昨年からもう4〜5回聞いてるし」と心の中で呟いたのはここだけの話です(笑)。

という冗談はさておき、昨年10月に買収契約が完了、12月末をもってテクストトレーディングカンパニーからフットロッカーアトモスジャパンに社名が変わりました。
2021年12月31日から2022年1月1日に変わる瞬間…外部の人間で何ら関係がない私でさえ慣れ親しんだ「テスクト(業界内では略してこう呼ばれていました)」の名が消えてしまうことに寂しさを覚え少々感傷的になっていたので、当事者である本明さんや本明さんを支え続けた妹さん、創業当初から共に歩んで来られた主要メンバーの方々の気持ちは想像を超えるものであったのではないかと今でも思っています。
フットロッカージャパンという新たな社名になったからといって私達ユーザーからはこの1年、大きな変化はない様に見えますし実際そうなのかも知れません。
ただ、スピードがatmosの最大の武器であるにも関わらず、事を始めるにあたりその都度米Foot Lockerの同意を得るのに時間を要するのであればFoot Lockerは伝家の宝刀を駄刀にしてしまっているのでは?と的外れかも知れませんが要らぬ懸念が頭を過ぎります。
以下はあくまでも私個人の見解ですが、Foot Lockerはよくもまぁスニーカー人気が下降線を辿るタイミングで日本進出に踏み切ったものだと。
20数年前もハイテクスニーカーブームが終焉し冬の時代といわれた時期にFoot Locker Japan合同会社を設立するも僅か数年、2000年に撤退しています。
しかも今回はatmos買収で名は知られたもののその頃と違いFoot Lockerのブランドイメージは無に等しい。というか現在スニーカーヘッズといわれるユーザー達の7〜8割はその名さえ知らなかったのですから。
好意的に見れば「どこもが二の足を踏む様な時期だからこそ、人が避けて通る道なき道を積極的に進むことこそ商売の鉄則」というのも強ち間違いではないとは思います。
ただ、アメリカの文化である合理性で勝負しようとするならば間違いなく20数年前の失敗を繰り返すのは火を見るより明らか。それを理解しているからこそのatmos買収だと信じているのですが、実際はどうなのでしょう。
「郷に入っては郷に従え」という格言が古くから日本に存在する様に、日本で或いは日本を拠点に事業、商売を広げるならば日本の文化や習慣に沿った方法を取ることが最も有効な処世術。
それが例え非合理的に見えたとしても!
計算され尽くされても合理化の先にカルチャーは生まれない。一見、無駄に見える様なものが織り混ざり時間をかけ発酵してこそ大きな利益をもたらす文化(カルチャー)となり得ます。
昨今ある様な、お仕着せの作られた薄っぺらい名ばかりの似非カルチャーとは次元が違うのです。
世辞でも忖度でもなく、atmosがこれまでやって来たチャレンジは揺るぎない本物の文化の創造を目的としている。そうしなければスニーカーが売れない時代になってしまっている。
願わくば、atmosの強みを鈍らせる愚行だけは避けていただきたいと米Foot Lockerさんに訴えたい。かつて我々世代が憧れたFoot Lockerが同じ失敗を繰り返えす様な間抜けな会社でないこを信じて。
何が売れて何が売れないのか?
それを見極めるのは
知識や経験値も重要ですが
もっと必要なのは嗅覚とセンス。
そして、モノを売ることへの
飽くなき執念。
それを備えた本明氏が日頃から言葉にする「何か面白いこと」とは次なるスニーカーカルチャー創造の種まきだと私は確信しています。
最後に告知。決して案件ではないのであしからず(笑)。

