血を吐きながら続ける悲しいマラソン?
TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )
今年(2022年)最も注目度が高いと言っても過言ではないAIR JORDAN 1 RETRO HIGH OG “CHICAGO”(DZ5485-612/白赤黒)が11月19日に発売。その前日にSNKRSアプリでナイキが独自に選んだユーザーにのみ購入権を与える限定アクセス(限定オファーともいう)を実施。
そして、その前哨戦とも言うべきTERMINATOR HIGH OG “GEORGE TOWN”(FB1832-001/紺灰)が11月17日に発売されました。
今回は11月17日〜19日の3日間を…事の良し悪しではなく可能な限り客観的に書いてみたいと思います。
両モデルが発売される11月の第3週に入ると…スニーカーファンの間では…SNS上も含めてこの2足の話題一色となり、その注目度の高さは誰もが認めるところです。
◼11月17日
スニーカーファンの間で足数はそれ程多くないと噂されていた反面…日本より早く発売された海外では完売する事なく店頭に残り続けているという現実を知った上で迎えた発売日です。
私が赴いたのはatmosルクア大阪店(以下、敬称略)。集合締切り時間の午前10時15分には私を含めて31名が並び、当選数は15。知人からの情報によるとatmos心斎橋店は34名の並びに対して当選数は20だったそうです。
今回、いつもより顕著に感じたのは東京と大阪の差でした。私は大阪在住なので強く感じてしまう部分もありますが、単純に人口比率から見ると大阪が1に対して東京は約1.7倍です。
スニ垢男子さんの動画にあるatmos各店の販売数と並び人数を見ると、それぞれ妥当な配分だと見て取れますが…差を感じるのは東京には大阪にはない取扱い店が存在し、販売数もそれなりにあったということです。
A+Sではドレスコードなしの販売、DOVER STREET MARKET GINZA(大阪はウェブ抽選のみ)は一般発売もあり、MA5に至っては並んだ50名ほどの方は全員購入出来たとか。更にその後も一般販売があったのでは?との事。大阪では考えられない状況です。
冒頭でも書いた様にその良し悪しや公平不公平云々ではなく、東京よりも大阪でTERMINATOR HIGHを購入する難易度が高かったという現実が存在したという事です。
そして、取扱店のないエリアの方々にとってはまるで異世界、バーチャル上での出来事の様に映るんだろうなと。その気持ちはそこで生活をしている人にしか本当の意味で理解出来ないことなのだろうと…。頭で理解するのと身をもって経験するのとでは雲泥の差があります。なので、大阪にいる私などはまだ恵まれている方なんですよね。
ネット社会の時代。ありとあらゆる事が可視化されるので地域格差が浮き彫りとなり否応なしに突きつけられる。それって、売る側にとっても買う側にとっても諸刃の刃です。
諸刃の刃といえば…海外での売れ行きが今ひとつと伝わりリセール価格が伸び悩んだ結果なのか?TERMINATOR HIGH OGは私が予想していた程の並びにはなりませんでした。もちろんドレスコードや平日であるという部分も作用してのことだと思います。
また、欧米と違い靴の脱ぎ履きが多い日本の生活様式においてハイカットが敬遠されがちということもあるとは思いますが、それを言うならAIR JORDAN 1はローカットよりハイカットの方が人気があるのは何故?実用性に富み、現在マイケル・ジョーダンが好んで履いているといわれるミッドの不人気は?となるので…やはりリセール市場での動向によって人気が左右され、並び人数にも反映されているのでしょう。
それとは関係なく…私の様なおじさん世代にとってTERMINATOR HIGHの紺灰はBE TRUE TO YOUR SCHOOLにライナップされるNIKE DUNK HIGHと同じ位置付け故に特別な存在なのです。更にオリジナルは日本での正規発売がなく、90年代のビンテージブームの記憶が刷り込まれているので、ついつい反応してしまいます。
因みにこれはナイキの方に聞いたわけでも、何かで読んだわけでもない…あくまで私個人の超勝手な予想でしかないのですが、BE TRUE TO YOUR SCHOOLにラインナップされたTERMINATORって…そのモデル名の意味から考えるとAIR JORDAN 1に対するAJKOの様な位置付けなのではないかと思っています。
自社製品に対抗する存在、うまく表現できないですが…否定とまでは行かないにしても自社製品のライバルは自社にありという様な今は失われてしまったかも知れない古き良き時代のナイキイズムなのではないかなと…。
尚、17日にはAIR JORDAN 1 RETRO HIGH OG “CHICAGO”(DZ5485-612/白赤黒)のSNKRS PASS(SNKRSによる直営店の事前抽選/今回はナイキ原宿のみ)が実施されました。
◼11月18日
この日の午後12時に限定アクセスがありました。
今回の限定アクセスは
「最も熱心なSNKRSメンバーに、エア ジョーダン 1 ‘Chicago’ を購入できるチャンスを提供。この特典は、これまでにSNKRSで少なくとも10種類のエア ジョーダン 1 HIGHの抽選にエントリーし、当選しなかったメンバーに提供される。」(オフィシャルの原文のまま)
という説明がありました。
きちんと説明されている様で、読めば読むほど突っ込み所が満載なのはいつものことなのでここでは流しますが…如何に理由付けされ様ともナイキサイドで販売相手を選別しているというスタイルである事に変わりはありません。
そして、選ばれた少数派の人は至福を瞬間を味わい選ばれなかった多数派の人は疎外感と落胆、憤りに近い感情に苛まれるのです。
もう一度申し上げます。良し悪しを問うているのではありません。現実として限定アクセスとは、そういう状況を作り出しているということです。
そして、選ばれたた少数派の方々も次回は選ばれない多数派にされる。
言い換えると選ばれた一部には喜ばれ、そうでなかった多数を失望させるのが限定アクセスであり、寛容な全てのユーザーによって容認されている企画というのが最も正解に近い?のではないかと…。
因みに18日の限定アクセスで購入済みでも19日の抽選にエントリー出来るという事例もあるので、お1人様1足のポリシーは適応されなかったのでしょうか?
◼11月19日
いよいよ天王山です。
午前9時にSNKRSの抽選受付が始まる。今回は先着や接続したタイミングによるものではなく、10分間にエントリーを完了し結果を待つ方式。しかしながら一部でボタンの反応が鈍く、登録しているにも関わらず住所等の再入力を求められ…結果、制限時間内にエントリーが出来なかった人がいるかも知れません。
尚、ボタンが反応しないのは多分バグではなく、アクセス集中によるエラーやサーバーダウンを防ぐ為の制限をかけているのではないでしょうか。
ここでひとつ余談を。
前日の限定アクセスで販売予定数の半分近くを消化しているのでは?とSNSの様子から推測できますので…19日の一般抽選のハードルが高かったのはその為かと。
一方、店頭販売のショップ前には最近では見る事が少なくなった列の長さが…。
聞けばTOKYO23の並びは781名。それに対して当たり総数は52。約6.7%の確率でした。
特にTOKYO23がある原宿・渋谷界隈は他と比べて取扱店が集中している為、普段とは違う光景が随所で見られた様です。それを見て、何を思いどう感じるかは人によって異なるでしょう。
世代によって、もしくはスニーカーに向き合い始めた時期によって理解や解釈の解像度が異なり、同じ事柄に遭遇しても捉え方が違うのはよくあることです。
ある楽曲の一節に
「知らないという罪と知りすぎる罠」
という歌詞があります。
知らない故に方向違いの見方をしてしまう。知り過ぎていてもそれが枷となり見誤る事がある。
見える範囲だけで短絡的に物事を判断せず、また思い込みを捨てて見極める事が大切なのだと、最近頻繁に思う事が増えました。
疑問に思うことの理由は?何故そうなっているのか?それらを調べ知り、深く考える人が増えて欲しいと私は思っています。
今年、最も注目を集めたであろうAIR JORDAN 1 RETRO HIGH OG “CHICAGO”(DZ5485-612/白赤黒)は何故ここまで人気なのでしょう?
数年ぶりの復刻だから?見た目がカッコいいから?プレ値が付きそうだから?
最近、CHICAGOと呼ばれる様になったAIR JORDAN 1の白赤黒はインラインモデルとして市販品されたオリジナルのファーストカラーだった事を意外に知らない人も多いのではないでしょうか?AIR JORDANシリーズのファーストモデルであるAIR JORDAN 1の最初のカラーリングこそが始まりの色であり、原点にして頂点だと考えるオールドファンは少なくないのです。
さて、纏めると…現時点において、少なくとも今年一番の盛り上がりを見せたであろう11月の第3週。
これが下降線を辿り始めたスニーカーシーンを右肩上がりに戻すカンフル剤的な役割を担うのか?それとも、これまでの人気を惜しむ最後の打ち上げ花火になってしまうのか?
正直なところ私には分かりません。
ただ、今回のAIR JORDAN 1 RETRO HIGH OG “CHICAGO”(DZ5485-612/白赤黒)の様なキワモノが出る度に、それまで特別な存在だと感じていたものが色褪せて見えてしまう様になります。売れるものが少なくなり、売れないものが増えるトリガーになってしまうかも知れません。そして、それを補う為にバリエーションを増やし毎日の様に発売が続き、その果てに更なるキワモノを世に送り出すことをメーカーは繰り返し、ユーザーに追いかけさせ様とします。
1960年代後半の特撮番組内で
「血を吐きながら続ける悲しいマラソンですよ」
という主役の台詞に準えて言うならば…
「この数年間の日本のスニーカーシーンは、売る側も買う側も血を吐きながらマラソンを続けている」
そんな気がしてならないのです。
それが経済だと言ってしまえば、それまでなんですけどね。
皆さんにとってのスニーカーライフは楽しい嬉しいだけですか?
Special thanks:@htaga1975、@satoyan.23、@shoecu0822、@sneaker.street.kicks 、@ykekrk