円安と脱ナイキ
TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )
緊急事態宣言も蔓延防止等重点措置も解除され、日毎の新規感染者数も下げ止まり…2年前、初めて耳にしたウィズ・コロナの時代が本当の意味でやって来た様に思います。
休日ともなれば街には人が溢れ、インバウンドこそ未だ少ないもののその風景はコロナ禍前に戻りつつあります。
ですが消費はというと、街に出ても人はお金を使わない。
私はお酒を嗜まないので正確には把握出来ていませんが、酒類を提供する飲食店も客足はコロナ禍以前の様には戻っていないと聞きます。
輸入インフレで国内物価が押し上げられ、長期の円安によって各業界の会社がこぞって値上げを敢行。
更にロシアのウクライナ侵攻が長期化の様相を呈し、その影響で今秋以降ますますモノの値段が上がると予想されています。
半年前、1ドル110円だったのが現在は137円に迫る勢い。さらに円安が進むと…高確率でスニーカーの価格にも跳ね返って来る確率は高い。円の価値が下がるということは私たち日本のスニーカーファンにとって非常に有り難くない話なのです。
現在のレート変化から単純に計算すると、販売価格が約1.2倍になっても不思議ではないのです。
そうなると、税込み19,250円のAIR JORDAN 1 RETRO HIGH OGが23,100円に。税込み30,800円のM990が36,960円になります。
ただでさえ気軽に買える価格ではなくなって来ているスニーカーが、どんどん高級品化していく。
個々人がもしスニーカーに投じる予算を据え置いたとして、これまで月に5足買っていたと仮定するならば同じ金額で4足しか買えなくなります。物価上昇は多岐に渡るので、その分も考慮すると3足がやっとになる恐れがあります。
こうなると、消費者たる我々は何を買うべきかという選択肢のハードルを上げざるを得なくなり「売れるもの」と「売れないもの」の格差が今よりもっと激しくなる。
更にハイプスニーカーにしても1次流通価格が上がると転売目的の2次流通価格も必然的に上昇。その値段では手を出さない人が増え、利幅が小さくなるとリセール市場も停滞。転売ブームと言われる現在のスニーカー人気の終焉がいよいよ現実味を帯びて来ます。
一方で、ここ数年ナイキの独り勝ちが続く中…ニューバランスなどの健闘もありますが、脱ナイキ(※ナイキを無しにするという意味ではなく、ナイキだけに頼らないということ)の気運が静かに起こり始めている様に感じます。
スニーカー業界に限らず1メーカー、1ブランドの独り勝ちはとても不安定で健全な状態とは言えません。親亀こけたら皆こけるでは困るのです。
ナイキ以外にもアシックス、アディダス、ニューバランス、プーマ、リーボックというスポーツシューズメーカーにも素晴らしい商品が多数存在するのは事実。
加えて新興勢力といわれるUGG、HOKA、onという次なる市場を席巻するポテンシャルを秘めた種子も揃い始めています。またフットウェアという観点から見るとKEENやナイキ出身者が加わり手腕を振るうCROCSにも新たな展開が見られ非常に楽しみです。
私はハイプスニーカーを決して否定しません。ですが、スニーカー(フットウェア)の価値はそれだけではないと考えています。
円安による転換期を迎えつつある今、日本のスニーカーシーンはリセールという原動力に偏らない市場を再構築する必要に迫られているのではないかと思っています。