ナイキアウトレットストア

TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )

自宅から11kmほどのところにあるはランクの低いファクトリーストアなので行っても買う物はなく、西日本屈指といわれる関空に近いナイキアウトレットは距離が60km近くあって車で高速を飛ばしても1時間以上かかるので、それなりに気合を入れないと出向くことが出来ません。

加えてコロナによる緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が続いたこともあり、アウトレット施設自体に1年近く行っておらず…特にナイキメンバーズデーなどの人が溢れかえるセール期間中は意識的に避けて来たこともあって、状況を全くといっていいほど把握できていませんでした。

画像はナイキメンバーズデーのとあるナイキアウトレットの模様です。

画像はナイキメンバーズデーのとあるナイキアウトレットの模様です。
ここ数年、転売目的で大量購入する日本人も含めたアジア系の人々(※以外、転売ヤー)が急増。その対策なのか1人10足まで若しくは10万円までという購入制限が設けられているそうです。
そのルールに則って購入するために転売ヤー達は人海戦術に打って出たので画像の様な光景が全国のナイキアウトレットで繰り広げられているそうなのです。
更に一旦入店すると何も買わないか、例えトイレに用を足しにであってもレジを済ますまでは店外に出てはいけないとか…まるで何処かの福利厚生ストアか?と見紛う様な規則がアウトレットストアにも適応されているというのです。
そりゃあ撮影も禁止になるはずです。

この状況下で最も煽りを喰らうのは普通の一般客です。

レジでサイズ確認と上限金額を超えた場合、間引き商品をどれにするかをスタッフと顧客間でやり取りをするので時間を要し、その精算を待つ転売ヤーが嵩高い購入品と共にフロアのスペースを占拠。
その異様な雰囲気に居た堪れす、またはレジ待ち時間に痺れを切らし何も買わずに退店する一般客も少なくないと。
これはナイキにとって取るに足らない些細な事象に過ぎないのかも知れませんが、自信をもって声高に謳っている顧客に対して提供している購入体験のひとつであるのは否めません。
付け加えると、アウトレットストアで働く現場のスタッフさん達も堪ったものではないと思います。もしかすると現場経験のない?権限者が事ある毎に合理化の名の下に実態の伴わないマニュアルを基準にルールを追加した挙句の果てだとしたら。それに従わざるを得ない現場の人達は恐怖を味わいながら接客をするしかないので堪ったものではないのではないかと…。
何が言いたいかというと本当に顧客に寄り添っていただけるのであれば、状況悪化を招くだけのルールをトップダウンで投げ放しにするのではなく、歴戦のノウハウと経験を持つ老舗リテーラーの教えを乞うくらいのことはしてもバチは当たらないのでは?そうでもして適正なルールや販売方法を講じ、一般客はもちろん転売ヤーさえも気持ちよくスムーズに購入が出来る様にしてこその素晴らしい購入体験の提供となるのではないでしょうか。
聞けば転売ヤー同士が揉めて殴り合いを始め救急車を呼ぶ羽目になったという事実もあるそうです。アウトレット以外の直営店前でも目当ての物が発売されるかされないかも分からないまま並ぶ転売ヤー達の間で小競り合いが絶えないとも聞きます。
そんなカオスな状況下に幼い子供を連れた一般客の家族が買い物をしたいと思うわけがありません。

実店舗の雰囲気は内装やスタッフの接客だけで成立するものではなく、そこに訪れる整然とした顧客達と共に作る空間そのものです。
それは、デジタルでは体感することが出来ないアーティストとオーディエンスが現場で織りなすライブ会場と同じです。

殺伐とした醜さ漂う雰囲気がスニーカーをはじめとする商品群に感染し、価値を貶めるイメージを植え付けられる様な状況をナイキファンであるが故に悲しくもあり、辛くもあります。

※メンバーズデーなどのセール期間以外は、ここまでの状況ではないと思います。
尚、20年前は転売ヤーもプロフェッショナルでストア側と持ちつ持たれつの良好な関係だったという話もあります。

【余談】
最近またフェイク云々が取り沙汰され、利用した方が2次流通会社に詰め寄るシーンをSNSで頻繁に見受けます。2年前にatmosさんのサイト内でフェイクに関するコラムを書いた時点で私の中では完結してしまっているので今更感は拭えませんが「一連の騒動についてどう思う?」と聞かれることが多いのでここでもう一度お答えすると…私自身、間違いを冒さず真贋の判定をする自信がないので『私は1次流通でしかスニーカーを買いません』というのが解答であり、誠意を尽くしたアドバイスでもあります。

死ぬほど欲しいと思ったものが手に入らなくても本当に死ぬわけではないし(笑)、その物欲に打ち勝つ精神を磨くのもスニーカーヘッズへの道なのだと思います。
因みに私の場合、欲しい欲しいと思い続けるのは疲れるので長年の体験からか?直ぐに忘れる癖がついているだけなんですけどね(笑)。

清水の舞台から飛び降りる覚悟で2次流通を利用したのなら届いたものを本物と信じて疑わない。疑心暗鬼になり過ぎると本物をフェイクと疑い精神的に疲弊してしまうという事態を招きかねない。そんな残念で馬鹿らしいことはないと思いませんか?
忌むべきはフェイク品を製造し本物と偽って市場に流す者達であり、願わくば現状より求めるものが手に入れやすくなる状況をナイキさんに構築してもらう。途方もないことではありますが、これに尽きるのでは…。

【補足】
コラムがAlternate Sneakers+からatmos universityに引越しをしてから1年が経ちました。今回で通算61回目となります。

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