
スニーカーとパチンコ ーその類似性ー
TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )
まず、最初にお断りさせてください。
スニーカーとパチンコの類似点を書くにあたって、このコラムを読んでくださる方はスニーカーの周辺事情に詳しい方ばかりだということを前提に書き進めてしまったので、対比するパチンコの説明が多くなってしまっていることに気付くも途中で止めることが出来ず、結果としてスニーカーのコラムらしからぬ内容になってしまっていることを予めご了承願います。
たまにはこういうことも…ということで大目に見てやってください(苦笑)。
SNSを閲覧しているとハイプ化しそうなスニーカーの購入場面をパチンコの演出に例えて表現する投稿をよく目にします。
それはパチンコをやったことのない人には全く理解できない専門用語?や演出だったりするのですが、少なくともパチンコに興じたことのある人達にとっては思わず頷いてしまうほどの共通点があるのです。
まず、パチンコとはどういうものなのかを簡単に説明すると…現在のパチンコは完全確率方式が採用されています。
主なスペックとして約320分の1、約200分の1、約100分の1の3タイプあり、それぞれマックス、ミドル、甘と呼ばれています。
※スニーカーのハイ、ミッド、ローとは全く関係ありませんし、これは類似点ではありません(笑)。
ハンドルを握り右に回すと1分間に100個の玉が打ち出され、ヘソといわれる台面中央にある穴(チャッカー)に球が入った瞬間に抽選が行われます。
完全確率なのでマックスの場合、1入賞毎に320分の1の確率で抽選が行われます。なので1回目の抽選も500回目の抽選も1000回目も320分の1の確率に変わりはないので、1回目で大当たりを引き当てることもあれば、2000回、3000回と抽選を重ねても当たらない時は当たらないのです。
因みに当たりが外れかはヘソに球が入った瞬間に決定されているので、演出を楽しむためのボタンやレバーを連打しようが強打しようが結果には全く関係ありません。
※おじさんやおばさんが、当たれ〜と念じながらボタンを連打している姿を見かけますが…あれ、手が痛くなるだけで全くの無意味です。

ん!あれ?何かパチンコのコラムみたいになってしまっていますね(笑)。
パチンコ台はヘソに入賞すると同時に抽選をする説明は先の通りですが、1回目の演出が終わる前に更にチャッカーに球が入ると4個、もしくは8個まで待機保留されます(保留しても既に当たりか外れかは決まっています)。
その保留を示すアイコンがあって、大当たりに結びつく期待度で色分けされています。メーカーによって違いはありますが…通常保留→青保留→黄保留→緑保留→赤保留→金保留→レインボー保留と保留アイコンの色がレインボーに近づくほど大当たりする期待度が高くなります。
スニ垢男子さん、本日のくっくさん、いちごセンターさん等スニーカー系YouTuberさん達が、例えばスニーカーの店頭抽選で100人並んで当選数が20なら青保留もしくは黄保留、25人並んで当選数が20なら金保留だと保留アイコンの色に例えて表現されるのは、当選確率の期待度のことを言われているのです。
それを試聴したパチンコに興じた経験のあるスニーカーヘッズは一瞬にして共感を覚え、件のYouTuberさん達に対して親近感を持つという心理が働きます(笑)。
■入店順抽選
スニーカーを買う際に入店順を決める抽選のための行列並は私達にとって見慣れた風景ですが…入店順抽選の歴史は圧倒的にパチンコの方が長いのです。


これはパチンコ店の入店順の抽選とその並びの風景ですが、スニーカーの入店純順決め抽選に置き換えたテロップを添えたユーモラスな動画です。
抽選はPCと専用の機器を使用し、入店順番号や再集合時間が記されたレシートが発行され手渡されます。
※因みに昨年11月にティファニー銀座店で発行された入店順番号入のレシートは抽選ではなく先着順に配布されたもので、秩序統制と公平性の面においてもパチンコ店の方が優っています(笑)。

■先着順
新台入替日やイベント日が先着順入店の場合…開店と同時におじさん達は良台に向かって脱兎の如く走るので、危険防止のために事前抽選を採用するパチンコ店が増えています。
スニーカーも路面店なら整理券を配りスタッフさんが誘導するのでその心配は少ないですが、入り口が複数あるショッピングモールにテナントとして入っているショップが事前アナウンスをせず先着順にした場合、各扉が開くと同時に目当てのショップを目指し…まるで西宮神社恒例十日えびすの福男選びを見るかの様なダッシュが繰り広げられ兼ねません。
先着順、入店順事前抽選の行列風景はスニーカーもパチンコもその対象が違うだけで…どちらにも興味のない人の目には全く同じ光景に見えるに違いありません。

■抽選の瞬間
SNKRSでエントリーしGOT’EM画面が現れる瞬間やatmosのアプリ抽選でスタッフさんが「あなたは?」のボタンをタップする時の一瞬呼吸が止まるかの様な期待と緊張。そして当選した瞬間の高揚感は…対象のスニーカーが入手出来る喜びとは別物で癖になります。それは、脳内麻薬と呼ばれるエンドルフィンやアドレナリンが分泌されることで得られる興奮と快楽で、正に麻薬の如く常習性をもたらし、パチンコやパチスロで大当たりを引き当てた時の快感と共通します。

故にスニーカーを買うための抽選であるにも関わらず、抽選を受けること自体が半ば目的となってしまっている側面も持ち合わせています。
また、SNKRSで連続購入できると確変にとつ入したと表現したり、入店順抽選で良い番号を引いた際に激アツな番号と称する方がいますが…確変も激アツも…元はパチンコ用語なのです。

■換金と転売
パチンコ店は風営法において第4号営業に分類されて、都道府県公安委員会に営業許可申請を行ういわゆる許認可事業のひとつです。
故に警察署の中に存在する風俗営業許可など風営法の諸手続や事務を担当している生活安全課の管轄下で営業していることになります。
従って、パチンコは競馬や競輪、競艇などの公営ギャンブルとは違い、あくまで遊戯であるという建前が成立しています。そのため、パチンコ店では景品を現金に換金することをしません。
パチンコ店が出球と交換するのは家電製品や日用雑貨、食料品などであり、その他に特殊景品というものがあります。この特殊景品とは出球数によって容量の異なる金(ゴールド)をプラスティックケースに収納したものを指します。

客はその特殊景品交換をパチンコ店を出て直ぐの場所や近隣に、たまたま?偶然?(笑)その特殊景品を買い取ってくれる古物商である景品交換で現金化するという仕組みを採用。そして、景品問屋がその景品交換所から特殊景品を買い取りパチンコホールに卸すという三店方式と呼ばれる仕組みによって、パチンコはギャンブルではないという図式を半ば強引に形成しているのです。
では、転売ブームが底支えをしていると言われているスニーカーはどうかというと、高値で買い取るショップや転売することが可能なプラットフォームを提供する会社が存在しているという点でパチンコの三店方式に類似した現金化への道が確立しています。
もちろん資本主義経済下において、それは違法ではないので、このコラムではその是非を問うものではありません。
■メーカー(ナイキ)の功罪
パチンコ、パチスロは年々店舗数が減少する斜陽産業と言われているにもかかわらず、頻繁に依存症問題の槍玉にあげられます。
私達スニーカーファンは少し考えれば、実はそれほど欲しくもなく、また必要に迫られいるわけでもないのに…日々リリースされるスニーカーを購入するアプローチをせずにはいられなくなっています。これは最早、買い物依存症ならぬ抽選中毒と言っても過言ではありません。
ただし、依存症とは個々人の問題であり、それぞれが節度のある身の丈に合ったレベルで向き合えば何ら問題はなく、ましてやスニーカーにもパチンコにも罪はありません。
それでもパチンコ業界はお上からの引き締めだけでなく、自主的に射倖心を抑える取り組みを続けています。昭和や平成中期にあった「出血大サービス」や「出ます!出します!」的な文言を使った広告は禁止され、「パチンコは適度に楽しむ遊びです」というキャッチフレーズを掲げて客のめり込み防止に取り組んでいます。
それではスニーカーはどうでしょう?
プランディングの名の下に需要と供給のバランスを意図的に操作し、それを際限なくエスカレートさせ、ユーザーの競争心を煽り射倖心を増長させてはいないでしょうか?
その裏には、表面化していないだけで毎月の支払いに追われる人を作り出しているということを考えたことがあるのでしょうか?
私達ユーザーがスニーカーを愛し長く付き合って行くには、第三者に左右されず、無理のない範囲で楽しむことだと私は思っています。
そして、送り手側であるメーカーは希少性という無形の付加価値だけでなく、自らが世に送り出す商品そのものの良さを正しく見極められるユーザーを将来のために育てる役割を担うべきではないかと考えます。
