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彼女から、プロ野球のチケットが手に入ったから見に行かないか?と言われた時、驚いて思わず携帯を耳から離して、通話相手が君なのか確認してしまった。携帯は冷静に彼女の似合いすぎている美しい名前を表示している。「ガンジーがスポーツクラブに行ってスカッシュを教わっているくらい、君と野球は結びつかないよ」と僕は言おうとしたけれどやめておいた。僕のこういった発言は彼女を混乱させてしまう恐れがあったからだ。

「君から誘われるなんて意外だったけど、僕でよければ是非行きたい」
「どうして意外なの?」僕はまた選択肢を間違えたらしい。彼女の純粋な疑問は時に僕にとって難しすぎる質問に変わりかねない。その度に僕は脳の中のデスクを1回キレイにとっぱらって君の参考書をドカドカ積まなければいけないというのに。「君が興味を持つなんて意外だったんだ」参考書は役に立たないが、彼女との会話に集中させてくれる事は確かだ。「だって、あなたいつも見に行ってるじゃない」


いつも見に行ってるには語弊があるが、僕は最近週に2回は見に行っていた。それは僕が朝でも夜でも暑い日が続くこの都市に嫌気がさしていた時期だ。そしてある日、美味いビールの飲み方を求めていた僕は、古本屋を巡った帰りにプロ野球を見ることにした。

古本屋からは少し遠いが、ラグビー場近くの球場を選んだ。僕は17時半に入場し、ビジター外野自由席の1番後ろ側に座った。1杯目のビールはプレイボールの時間に落ち始めた夕日を見ながら飲んだ。乾いた風が僕をくすぐり始めている。2杯目はビアガールからビールを買った、とてもスタイルが良くて愛想のいい女の子だったが無常にもビールの味は同じである。3杯目も同じビアガールからビールを買った、涼しい風とたまに聞こえる打球音がこの都市にいることを忘れさせてくれる、こんなにはっきりと月を見たのも久しぶりだった。ビールは泡が立っていて、ビールの味がすればそれでよかった。


僕は、8回表ワンアウトの場面で球場を後にした。試合はほとんど見ていなかったが、ここで飲むビールは心地よく誰にも邪魔されない特別な飲み物に変わることはわかった。

透明なプラスチックのグラスにビールが勢いよく流れていく様を思い出しながら帰った。みんなは美しい泡との比率を求めるが僕にはどうだってよかった。ポツンと空のグラスが頭の中にずっと残っている。

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スポーツだけでなく、様々なカルチャーシーンをけん引してきたこの一足も透明になってしまった。きっとこの一足はもう何も語らないのかもしれない、しかしそれは今までの歴史も全部脱ぎ去って、また新しく生まれ変わったのと変わりないだろう。語り手は僕たちに変わっただけの事なのだ。

堂々として眩しいぐらいの透明が僕の目の中でキラキラと泳いでいる。すっかり空になっていた僕の透明のグラスは、いったい何に満たされたいのだろう。

「いつもではないけれどね。それで、球場はどこなの?晴れるといいけど」
「何言ってるの?屋根のある球場だから雨の心配なんかいらないわ、明後日の18時開始よ。こういうのって何時くらいに行くのかしら?」
「17時くらいに待ち合わせしておけば大丈夫じゃないかな」予想が外れて僕は少し動揺を隠せなかったが、彼女が僕の思い通りならない事は出会った時からなんとなく分かっていたことだ。ガンジーが菜食主義だという事実を聞いたときに、なんとなくそうなのではと思っていたのと同じように。
「17時ね、でもその前にきっと会うわ」
「どうして?」
「あなたが思っている以上に、私はあなたの事を知っているからよ」

こうして僕たちは、待ち合わせ場所を決めずにプロ野球を見に行くことになってしまった。彼女といると飽きないが、こちらがハラハラしてしまう行動をとる事も多々ある、しかしそれは彼女の長所と言ってもいいだろう。なみなみに注がれたビールがとても魅力的に見えるのと同じように、彼女の突飛でユーモアにあふれた部分をみんなが求めているからだ。

「17時までに必ず見つけるわ」
電話はそこで切れた。君は何を注ぐだろうか。


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