
2020 3/31 ATMOS NAMBA
ボブと、どうやって仲良くなったのか思い出せない。出会ったのは2年程前にミナミであったレゲエのパーティーだったはずだ。
仲良くなってみて分かった事といえば、奴は1日の15時間は上の空で適当なことしか言わなかったし、そのはずみでひらひらした嘘をすぐにつく有体に言えばダメな奴だった。ちなみに奴は15時間の残りを睡眠に充てていた。
クラブの中で独特なリズムで踊りまくっていたボブの褐色の肌を見て
「どこから来たんだ?」
と尋ねた時にも
「もちろんニューヨークのハーレムからだ」
と奴は答えたものの、強烈なアフリカ訛りの持ち主だと気が付くのに時間はかからなかった。
ボブは律儀なぐらい適当で本当にどうしようもない奴だったのだが、良い所が2つあって、1つ目はド派手な服が褐色の肌にやたらと似合った事と、2つ目は時折ふわふわした会話の中にこちらがハッとするような格言を織り交ぜてくることだった。
「レゲエの神様みたいなこと言うな、ボブだけに」
なんて言うと奴は照れ臭そうだが本当に嬉しそうな顔をした。
ボブがどういった仕事をして日本で暮らしていたのかは結局わからずじまいだった。ある日突然連絡が取れなくなって、人づてにジャマイカへ強制送還させられたと聞いた。
奴がいなくなっても俺の生活は何も変わらなかったが、ボブの姿が消えたいつものクラブは、加工し過ぎたインスタグラムの写真のようにどことなく殺風景に見えた。
俺もちょうどその頃から夜遊びから遠ざかり、大人になるという名目で仕事に忙殺され、2年ほど過ぎてボブの事を思い出す事も無くなっていった。
~~
この前仕事帰りに商店街を歩いていたところ、聴き馴染みのある曲が聞こえてきた。
「ボブが好きだった曲だ」
と気づいたのは吸い込まれるように店内に入った後で、そこはatmosというスニーカーショップだった。
音楽を聴きながらぼんやりと店内を眺めていると、目に留まったシューズがあった。


あの日、クラブで、最高にクールだったボブがちょうど似たようなカラーリングの服を着ていた。 絶対に俺には似合わないカラーリングの服を颯爽と着こなす奴の事が、口には出さなかったけれど羨ましかったんだっけな。
青春とも呼べないくすんだ日々が鮮やかにフラッシュバックし、俺は気が付くとシューズを試着していた。
全身は無理でも、足元ぐらいならいけるかもしれない-
普段は優柔不断で買い物は苦手だが、即決した。 これにしよう。
会計を済ませその場ですぐに履き替え、軽快な気分で店をでた。ボブにまた会う事があるのかはわからない。昔に戻りたいとも思わない。が、少しぐらい感傷に浸っても構わないはずだ。
気が付くと、雨が降ってきた。スニーカーを下したばかりなのについてねえ。とその時、ふとボブのあの一言を思い出した。
「雨を感じられる人間もいるし、ただ濡れるだけの奴もいる」
春先の雨を肌に感じながら、不思議と俺の気持ちは晴れ晴れしていた。
atmos NAMBA
大阪府大阪市中央区難波1-6-12 虎やビル
TEL 06-4708-3825
TIME 10:00-21:00
https://www.instagram.com/atmos_namba/?hl=ja