
令和の第1次スニーカーブーム〜その光と影
TEXT by Koji UEDA ( Alternate Sneakers )
巷ではAIR FORCE 1の40周年を祝う動きがある様です。巷といっても相変わらずの東京(首都圏)フォーカスなので…地方民は注視していないと絵空事でしかありません。
東京勤務時代に宣伝販促の仕事をしていたこともあり、首都圏とそれ以外の違いは身をもって知っています。いくらSNSが普及し情報伝達スピードがリアルタイムになろうとも直接的な躍動感を伝えることをしない限り、その温度差を埋めることも理解することも難しいでしょうね。
しかし、これを機にAIR FORCE 1を初めて手にし、履く人が増えるきっかけになるのは良いことだとは思っています。
AIR FORCE 1は重くて…という声も一部あると聞きますが、スニーカーヘッズを名乗るなら多少の重さなんてものともしない気概を持って欲しいところです。

さて、どうでもいい前置きはこれくらいにして…今回はこれまでこのコラムやSNSで取り上げたことを改めて短く要約してみたいと思います。
■スニーカーから離れるきっかけ
意識的にではないにしても長きに渡りスニーカーとスニーカーを取り巻く状況を肌で感じて来た中で、スニーカーから離れていく人を数多く見て来ました。
その理由は千差万別、様々です。
単純に飽きたというものからリリース数が多過ぎて、或いはプロパー価格が上昇し金銭的に続かなくなった。スニーカーが増え過ぎて置き場所に困りこれ以上買い続けることが出来ない。
学生から社会人となりスーツで過ごす日々が主流となりスニーカーを履く機会が少なくなって自然に離れた。また、結婚を機にだったり子供が産まれてことがきっかけになったり、転職や引っ越し等…ありとあらゆる内的、外的要因に影響されます。
スニーカーは履き物(フットウェア)であり衣食住の衣に分類される生活において欠かせないツールではあるものの、ある一定の数量を超えると贅沢品、嗜好品へと変貌します。
1足1万円から3万円を超えるものも少なくなく、それを毎月何足も買う様は…世の堅実な経済観念の持ち主には狂気の沙汰にしか映らないでしょう。
趣味だから好きだからという強引な論理で自らを納得させてはいても、一部の富裕層を除き多くのスニーカーファンは頭の何処かでこのままでいいのだろうか?こんなことを続けていて大丈夫なのか?という疑問を抱きつつ、それぞれに適したアクセルとブレーキを使いつつスニーカーと向き合っているのだと思います。
スニーカーヘッズと言うと耳障りがいいですが、これは私を含めたスニーカージャンキー、スニーカードランカーが抱えるユーザーにしか理解出来ないであろう領域なのだと思います。
■スニーカー抽選の中毒性?
SNKRSを含めたウェブ抽選がクセになっていると自覚している人は多いと思います。
実際はそれほど欲しくなくても抽選に繰り返し挑む。結果が出る瞬間の高揚感と当選した際の恍惚感が忘れられられない。
これ、ギャンブル全般で的中を予感した時の状態と同じです。身近なものとしてパチンコの存在があります。
厳密に言うとパチンコはギャンブルではなく遊戯というカテゴリーに位置付けられていますが…大当たりの瞬間及びその前後に得る感覚はスニーカー抽選のそれと酷似しているのです。

それほど魅力を感じないスニーカーであっても抽選に当たれば買ってもいいかと抽選に参加する人はパチンコを始めるとどハマりする素質を備えていると言ってもいいでしょう。
本来、スニーカーを買うための手段として抽選というものが存在するわけですが、抽選することが手段ではなく目的になってしまっているのは需要と供給のバランスを意図的に崩し、アフターマーケットを活性化させることによって射倖心を煽る戦略の副産物のひつとです。
スニーカーを購入しようとするアクションをギャンブルに等しい領域へと昇華させてしまったツケは必ず払わなければならない時が来ます。
■お金の匂い
盛んなアフターマーケットとSNSによるユーザー同士の煽り合いが底支えとなっている現在のスニーカーブーム。
メーカーはこれを利用し、ユーザーを掌の上で上手く転がして来たわけですが徐々にその効力も衰え始めて来た様に感じます。
スニーカーを投資目的として買い資産運用する。それが現在のスニーカーシーンの実態であることは動かせません。
事実、発売日に完売するかしないかは、リセールサイト上で事前に閲覧出来る売値と買値に大きく左右されます。
ウェブ上からも店頭からも姿を消すと手に入れたいという欲求が強まり、よりカッコいいと感じる様になる。更にアフターマーケットでの取引額が上昇すると、その思いは一層高まって行く。
逆に発売後リセール価格が定価付近もしくは定価を下回るとキャンセル、返品が増えるのがメーカー直営の通販アプリ。そうなると件のアプリではリストックが繰り返され、同時に実店舗の店頭在庫はピタリと売れなくなる。
一言で言えば、お金の匂いがするかしないかが鍵。お金の匂いがするスニーカーしか売れないのが令和の第1次スニーカーブームの特徴。
スニーカーブームとその終焉は幾度となく繰り返されて来ました。
スニーカーが好きになり、コレクションし…スニーカーライフを楽しむ。
しかし、どんなものにも陽と陰がある様にスニーカーライフにも陰があります。
スニーカーは楽しいことばかりではない陰の部分も伝えてこそのメディアでありSNSであって欲しい。情報発信は可能な限り正確に。
■余談
日本に限ったことではありませんが、何処に行っても店頭に並ぶ商品は同じものばかり。統一化された市場には多くの利点があるのでしょうが、国や都市による特色がなく実に面白くない。
そう思うのは、比較する時代を過ごして来た者の悪い癖。そう分かっていても…いいのか?こんな状況で!と憂いてしまうのです。
とりとめなくなってしまいましたが、私はいつもこんなことばかり考えています。
もちろん、これ以外のことも頭の中で渦巻いています。
私はこの25年間…ユーザーでありながら幸いにもスニーカー業界の内情をほんの一部ではありますが垣間見せてもらって来ました。
その為、人とは少し違う視点でスニーカーシーンを捉えてしまう様になったのだと思います。故に不快に感じる方がいることを承知の上で時として毒を吐くに及ぶこともあります。
一方で、もし私がこれまでスニーカー業界に何らかの貢献をしたとするならば…それはブームでない時期も変わらず情報発信をし続けたこと。それに尽きると思います。
